「DSAT災害洗濯支援チーム」は令和6年1月に発生した能登半島地震をきっかけに立ち上がった、日本で初めての災害洗濯支援チームです。全国のクリーニング師有志が、被災地域のクリーニング店と連携し、被災して断水等で思うように洗濯・クリーニングができなくなった地域の住民の皆さんへの支援を行っています。
支援は全国の皆さんから募った募金によって運営され、洗濯とクリーニングによって、被災された方々が清潔で気持ちのよい衣類を「当たり前に着られる」衣生活を支援。これまでになかった災害支援・地元の復興支援の形として注目されています。
1月より開始した能登半島への支援活動も現在継続中ですが、今年は、山形、秋田、沖縄で水害が発生したり、宮崎県でも大きな地震が発生し南海トラフ注意情報まで発令されることもありました。各地域でいつ災害が起きてもおかしくありません。個人として災害に備えることはもちろんですが、業としても災害時にすべきことを明確にしておく必要があると考え、これから起きるかもしれない災害への備えとして、全国各地のクリーニング店さんが協力して支援活動をしていけるように、登録団体、登録クリーニング店を募っております。
「全国各地のクリーニング店さんに登録していただくことで、いち早くその災害地域で支援活動を行うことができたり、多くのクリーニング店さんで協力して支援活動をする事でより広い地域のより多くの被災者の方へ支援ができるようにしたいと考えています。ぜひ、多くのクリーニング屋さんのご登録を宜しくお願い致します。
これまで災害時には、個々のクリーニング店さんが自主的にボランティア活動を行ってきた例がありましたが、その知見や経験が業界全体で共有されることはなく、また次世代に引き継がれることもありませんでした。業界全体として、災害時にどのような貢献が可能であるかが明確にされておらず、その結果として業界としての適切な対応が取られていなかったというのが実際のところかと思います。
また、個々の業者が単独で支援活動を行うには、時間的にも資金的にも負担が大きく、広範囲の活動、また、長期にわたる活動は困難です。DSATはこの負担を軽減し、継続的かつ効果的な支援を可能にするためのチームでもあります。
過去の災害支援活動において、DSATのようにクリーニング店さんが連携を取り、組織的に洗濯支援が行われた例は存在しません。災害救助法には、クリーニング業者が毛布やシーツを洗濯することなどが明記されている例はありますが、被災者の洗濯を代行することは明記されておらず、避難所等において、被災者が持ち込んだ衣類や、物資として提供された衣類を洗って衛生的に保ち、持続的に使用するという視点が欠けていました。
DSATの取り組みは、こうしたギャップを埋めるものであり、食料や医療支援と同様に重要な「衣生活」への支援を提供するもので、これまでにはなかった支援の形として能登半島の地震災害では、被災地域の皆さんに支持されました。今回の能登半島でのDSATの活動は、クリーニング業界が災害時に果たすべき役割を明確にする契機となっていると思います。
クリーニングのプロが災害支援をする理由
洗濯機やコインランドリーがあれば支援は必要ないのでは?という声もたまに聞かれます。
でも、僕らクリーニングのプロが支援をすべき理由があります。
まず、被災地にはものが潤沢にないことが多くなります。物資として衣類は届きますが、それを被災された方が着れるかどうか?着たいと思うかどうか?は別の問題です。衣類があっても着られないこともあります。だから限られた自分の服を、状態を維持しながら着続ける必要があります。
現在の衣類は、多様化により、普段着が高度におしゃれになっていることを考えれば、洗濯機やコインランドリーでは十分ではないということがすぐに分かります。洗濯ではなくて、キチンと衣類に合わせたクリーニングをして、先の見えない避難生活でも持続的に衣類を着られるように支援をする必要があります。
被災した家屋、片付けに入った家屋などから取り出した衣類や着物などを洗ってまたキレイにして使ってもらえるように支援することも、僕らの仕事です。
また、業務用の大きな洗濯機で大人数の衣類を洗えたり、布団や毛布などを洗うことも大きなメリットですし、支援のニーズとしてとても大きいものでした。まとめて洗うことで、被災地の使用する上水・下水の量を減らし、給水や排水の負荷を減らすことが出来ることも大きな貢献になります。
本来、こうした活動は組合が主導すべきと思いますが、組合員の減少や高齢化、そもそも組合員が小規模な個人店が多いことを考えると、組合だけでは対応が難しいと思います。また、アウトサイダーのクリーニング屋さんが支援に加われなかったり、活動しようと思ってもどこからもサポートされないということも起こります。
様々なしがらみや垣根を超えて、大手のクリーニング店さんから小さな個人店まで、業界を上げて災害時の対応ができるように早急に体制を整える必要があると考えています。
万が一、災害が発生した時に、登録店の方へお願いすること。
DSATに登録してくれているクリーニング店さんの中から、被災地域に近いクリーニング屋さんに声をかけさせてもらい、被災地域の支援をお願いさせて頂きます。被災地域にできるだけ近いところから順番に声をかけ、動いてもらえるクリーニング店さんがいれば具体的にお願いすることは主に次の3つが挙げられます。
①被災地域の状況を確認して情報収集をお願いする
災害発生後、マスメディアやSNSなどでは情報が錯綜したり、不十分だったりして被災地の状況を正確につかむことができません。そこで、被災地域に近いクリーニング店さんに現地に入ってもらい情報を共有して頂くことをお願いします。現地に入るといっても特別なことはなく、危険なところに入る必要はありません。被災地域の現地の人やクリーニング店の方に会って話をしたりして、リアルな状況を聞いてもらいそれを共有してもらうなどです。
②現地の住民の方の衣類を代行して洗ってもらう
今回の能登での経験から、断水などによって洗濯ができないことは地域の住民の方の生活に大きな支障が出ることが浮き彫りになりました。そういった洗えずに困っている住民の方の洗濯の代行も必要であればお願いしたいと思います。また、被災直後は被災地域のクリーニング店さんは精神的にも、設備やインフラ的にも、資金や人員的にもすぐに稼働をすることが難しいことを肌で感じました。ですが、地域にクリーニング店がないと多くの人の暮らしが回らない状況がありました。「クリーニングに出すことができない」というのも被災の一つなのだと改めて思い知らされました。クリーニング店が地域の暮らしに欠かせない存在であることを実感し、被災地域のクリーニングインフラに空白をうまないようにすることも災害対応として業界全体に求められます。地域のクリーニング店さんが被災して、再び立ち上がるまでの期間、周辺のクリーニング店さんで最低でも3ヶ月から半年程度は応援として被災地域に入りその間のクリーニング需要をつなぎ、対応する必要があります。
③現地のクリーニング屋さんでは対応できない、被災した衣類やきものなどの再生を請け負う。
人だけでなく、衣類も被災をします。倒壊や水没した家屋から取り出した衣類や着物や布団などの再生も、被災地域のクリーニング店さんだけでは対応ができないこともあります。その場合に、受入可能なクリーニング店さんにお願いすることがあります。
登録したからといって、今すぐこれをしてくれということではないですし、災害時に必ず動けということでもありません。その時の状況や事情もわからないと思いますので、声がけはさせてもらい、動けるようなら動いてもらうという形で、個人店、大手チェーン店、組合員、アウトサイダー問わず、全てのクリーニング店さんに向け、登録店を募っています。
令和6年能登半島地震における災害洗濯支援活動は、被災者の皆さんの衣生活環境を大きく支える活動であったのと同時に、僕ら自身、クリーニング業界が果たすべき社会的役割を再認識するものになりました。
DSATの活動を通じて、従来の災害支援にはなかった「衣生活」への支援が提供され、衛生と快適さを確保することで、被災者の心身の健康を守る重要な役割を果たしました。
石川県が行った公的な洗濯支援のスキームもDSATの活動が契機となり実施されましたが、国をはじめ行政はまだまだ洗濯の重要性に気づいていません。国や自治体からの動き出しを待っていたらいつまで経っても災害時に衣生活に困る被災者は減らず、予算化などもしてもらえないでしょう。
だからこそ、自発的にクリーニング屋さんたちが動き出し、その必要性を訴えることで国や県、市町村などの予算に組み込んでもらい、災害時に動きやすくしておく必要があります。今回の経験を基に、災害時に被災者の皆さんが安心して生活を再建できるように、より強固で持続可能な支援体制を整えたいと思っています。
国家資格であるクリーニング師は、日本の衣類の衛生を守っている。その使命を改めて思い出して頂き、「服が洗えない、みんな困っている、これを洗うのは自分たちの役目だ!」と立ち上がってほしいと思います。
ここにクリーニング業の社会的使命や必要性が全部詰め込まれているはずです。この意識がクリーニング業界にあるかどうか?今そこが試されています。
「今後検討する」と言っているうちに災害が各地で起きて、そのたびにどこかで断水したり、避難生活を強いられる人が出てきます。僕らはプロとして洗うことしかできないけれど、でも、僕らが洗わなければプロとして誰も洗うことはできません。暮らしの中で、衣類は欠かせないものです。それを守るのが僕らの仕事です。
今回の能登での支援活動では、何度もこのクリーニング師の使命を感じてきました。同時に、このクリーニングという仕事の素晴らしさも。世の中で、衣生活を守る事ができるのはクリーニング師だけです。代わりがいない重要な仕事だと思っています。
ぜひとも多くのクリーニング店の皆さまのご理解とご協力のほど、宜しくお願い致します。
DSATの洗濯支援に届いたお声
令和6年能登半島地震での主な支援先
七尾市
中島小学校避難所、小丸山小学校避難所、山王小学校避難所 他
能登町
能登町役場、柳田小学校避難所、松波中学校避難所、小木中学校避難所、上町公民館避難所、ぽかぽか 他
輪島市
ウミュードゥソラ、町野スポーツクラブ、刀祢建設、輪島中学校避難所・鳳至小学校避難所・大屋小学校避難所・河原田小学校避難所 他
珠洲市
飯田高校、飯田小学校避難所、緑丘中学校、あみだ湯、珠洲総合病院 他
メディア掲載
・01月22日 NHKニュースウォッチ9
・02月05日 ANNニュース
・02月28日 NHKニュースウォッチ9
・02月29日 NHKおはよう日本
・03月01日 NHK長野 イブニング信州
・03月23日 信濃毎日新聞
・04月27日 共同通信
・10月05日 北國新聞